―――――SIDE:てん




≪『互ひ想ひ』(ぷかぷか)より抜粋≫



【収録タイトル一覧】
各々の妥協
恋愛のススメ           …「副長攻略 ノ ススメ」 2004/11/30
副長と隊長の日常〜extra〜  …「恋の唄」(コピー)2005/1/19
鬼の部屋ー其の壱ー
たがひおもひ
互ひ想ひ
鬼の部屋ー其の弐ー      …「ぷかぷか」2005/3/27
ギリギリ               …「副長攻略の いろは」2005/5/4
一人上手              …「副長攻略マニュアル」2005/8/13

―――――SIDE:羽月



「……総悟、俺たちの職業は何だ?」
 よく通る低い声で問う黒髪の青年に、向かい合って正座させられている童顔の青年――沖田総悟は人形のように整った無感情な顔で答える。
「武装警察真選組の一番隊隊長と将来の副長でさァ」
「後半に手前の願望込めてんじゃねーよ。誰がテメェに譲るか」
 そもそも、それでは今現在副長である自分のことが含まれていないではないかと黒髪の男――土方は呆れたように嘆息を吐いて額に手を押し当てた。既に酷く気疲れしていて、怒鳴るだけの気力が湧かない。
 しかしそんな土方の様子など斟酌せず、沖田は淡い色の髪をさらりと揺らして首をかしげた。それは不思議がっているような無邪気な態度ではなく、この程度でごちゃごちゃ云うなんざ肝の小せェ男だなという心の声が滲み出たわざとらしい仕草である。
「何でィ、ケチくせぇ。何もタマまで取ろうってんじゃねぇってのに。死ね土方」
「常日頃からしっかりタマまで取ろうとしてんだろうが。死ね沖田」
 坦々と罵言を吐き合い、土方は背後の文机に手を伸ばして灰皿を掴んだ。その上で灰が伸びた煙草を叩いて不要な部分を落とす。咥えて紫煙を吸い込むと、少し苛立ちが静まった気がした。これくらいでいちいち神経を荒立てていたらストレスで早死にする、と思いながら気を取り直す。この生意気極まりない少年との付き合いももう随分長いので、気分を切り替えることにはさすがに慣れていた。
 フィルター近くまで燃え尽きた煙草を灰皿で揉み消し、土方は利かん気な子どもに云い聞かせるような口調で言葉を紡ぐ。
「いいか。テメーが云ったように俺たちは警察だ。で、次にこれァ何だ」
 そう云って至極面倒そうな仕草で、土方は右手を差し出した。くりくりした大きな眸で、沖田がそこに視線を落とす。そして簡潔に答えた。
「金属でさァ」


≪書き下ろし『Link』より抜粋≫