近藤・土方・沖田/No.1




 蒼い空。冷たい風。
 何の感慨も沸かない、ありふれた光景。






     或る晴れた日に





 普段からサボっているけれども、今日は非番だから昼まで寝てやろうと思っていたのに叩き起こされた。
 それが土方の野郎になら今晩はいつもの倍呪ってやろうかと思うところだったが、寝起きの顔を覗き込んできたのが近藤さんだったからやめにしておく。
 それから身支度して朝飯を掻っ込まされても頭はまだ何処か寝惚けたままで、だから墓参りに行くぞと連れ出されたけれどそれが誰のか分からなかった。
 真選組創設より前、まだ道場にいた頃にお世話になった人だと聞かされるがそれはとても間接的でピンとこない。
 車を降りて歩く細い道、前を行く土方さんの肩に担がれる格好で揺れる小さな花束のオレンジが何だか異質だと思った。
 ―――春らしい色でいいと思わねーか。
 先に出掛けて花屋に寄ったという土方さんがそんな風に、似合わないことを云っていた。
 少し歩いて着いたのは閑静な、というより閑散とした住宅街の外れにある一層寂れた小さな墓地だった。
 此処に来んのも久しぶりだな。とか近藤さんが云っているが自分には覚えがない。道すがらお前も会ったことがあるんだぞと容姿を説明されて朧気に思い出せたのは、幼い時に見た説明された通りの白髭白髪のジジイだった。
 見知らぬ風景をきょろきょろ見回しながらふたりの後をついて行き、細くて急な坂を上って墓地の入り口で立ち止まる。

「どれだ?」
「あー、アレじゃねェか?」
「おお、そんな感じだな」

 物凄く不安を煽るような言葉を交わしながら、年長者ふたりは他より少しだけ大きくて立派な墓に近付いていった。
 もし間違っていたらどうするつもりだろう。
 そう思いながら最後尾を行くと、近藤さんが墓石の背後を覗き込んだ。そこに刻まれた名を確認しているらしい。

「此処だ此処だ」

 そうか、と答えた土方さんが花束の包装を解いて、墓の左右にある既に供花でいっぱいの筒に花を押し込むように差し込んでいく。
 それがどうにか形に収まったところで、近藤さんと土方さんは墓前に並んで手を合わせた。だから自分も倣って両手を合わせ、眼を瞑る。軽く俯くと視界は真っ暗で、暢気に囀る鳥の声と風に揺れる梢の音が静かに聞こえた。
 どのくらいこうしていればいいのだろう、今日は夕飯は何だろう。などと不謹慎なことを考えて前方の二人が合掌をやめるのを待つ。

「あ、どうしようトシ。酒忘れた」
「……祟って出るんじゃねェかあのジジイ」
「うわっ、許せジイさん! アンタの分も俺たちが呑んどくからよ!」
「ああ、そりゃァいい。帰りに一杯引っ掛けてくか」

 声がしたので眼を開くと、天に向かって叫ぶ近藤さんの隣で土方さんはそう云って低く笑った。
 その遣り取りを聞いていると哀しまれるだけじゃなく感傷に浸られるでもなく、今なお親しみをもたれていることが分かる。
 この墓の下で骨になった人間は一体どんな人柄だったのだろうと、今更それだけが少し気になった。





06.04.03




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