銀時×土方




   糖分摂取


 抱き込むように腰に回した左腕は、意思に反して余裕の無い動きで男を引き寄せた。

「イキナリ何だ」
「んー、何だろうね。本能?」
「阿呆」

 おどけて見せると低くて落ち着いた――そして心成しかやさしい――声が耳を打つ。銀時は否定も肯定もせず、躰を密着させた。身長に差が無いから頬に相手の髪が触れる。黒くて艶やかな髪は擽ったかった。

「俺さァ、ここ一週間糖分禁止されちゃってね」

 云いながら、やけにきっちり着込まれた相手の隊服に手を掛ける。土方は続きを促す為か黙っていて、抵抗もしない。

「パフェも餡蜜も桃饅もケーキも最中も胡麻団子もプリンもたい焼きも飴ちゃん一個もダメだって…もう流石の銀さんも死ぬかと思ったね」
「だったら死ねよ」
「……多串くん冷たい。あのね、だから糖分摂らせて?」
「飴もガムも持ってねーよ。つかこの体勢で云われる意味が分からねェ」

 腰に手を当てた土方の深く吐き出された息が耳を掠める。確かに愛の言葉のひとつでも囁くような抱擁において、妥当ではない科白に対する当然の疑問だろう。
 しかし土方の肌が甘そうに見えて、匂いを嗅いで舐めてみたくなったと正直に答えたなら間違いなく刀の錆にされてしまうので、銀時は何も云わない。
 何でもない顔は保てるのに、土方を抱く手には力がこもり、布に皺を刻む。
 そして後は熔けてひとつになるしかない近さの体温を遮っている布の、手始めに相手のスカーフを解いた。シュルリ、と密やかな摩擦音。
 中の服にも空いた手を伸ばし、何故こんなにも重ね着をしているのだろうと銀時はもどかしい気持ちになる。自分など2枚脱げばそれで終わりだというのに、彼のこの煩雑さは何だ。タマネギじゃあるまいし。
 総て脱がせずただ先に先に、と上着は両肩からずり落ちただけで銀時の手は土方の衣服を中途半端に乱していく。最後の白いシャツから片方の肩だけ露出させるに至り、銀時はその日焼けしていない白い肌にくちびるを寄せた。項の髪の生え際から肩のラインを小さく出した舌でなぞる。
 やはりというか、現実に甘い筈もなく、それでも何か味蕾が拾うものはないかと這わせた。一瞬だけピクリと、土方の躰が震える。

「やめろ」
「ナニ、感じちゃった?」
「寧ろ鳥肌だ」

 刺々しい声でスッパリと云い切られて、銀時は少々がっかりした。本当にチョットダケだけど、期待していたものが裏切られたのだ。唯でさえちっともそれらしい空気にならなくて、何ともいえず情けない気分を味わっているのに。

「こうさ、もうちょっと甘い雰囲気とかになれない?」
「もう充分甘ェよ」
「え、嘘。何処が」
「さぁな」

 諦念に似た吐息を零し、答える土方の無造作に下ろされたままの腕。
 その手に握られた刀。
 鯉口を切りもしない指の意味こそが何よりも、甘く。








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