銀時×土方/WLその後
ひやりとした空気の流れを感じて、土方は布団の中で身じろいだ。 重い瞼を押し上げると見慣れた天井が眼に入って、軽く眉根を寄せる。床に入った記憶がなかったからだ。 元気いっぱいの神楽に朝から連れ回された挙句、偽物だった筈の獣の耳としっぽがいつの間にか最初から土方に備わっていたかのように感覚刺激を伝えてきて土方の精神は限界に達した。だからそこから先の出来事は酷く曖昧なのだが、神楽に手を引かれて屯所に戻って来た後、夕食も食べずふらふらと布団に潜り込んだらしいとおぼろげに思い出す。 ―――そうだ、耳…! がばっと起き上がった土方は頭を両手で押さえた。しかし、そこからは何も飛び出していない。唯、髪の感触があるだけだった。 ぺたぺたと何度もそれを確かめて、土方は胸を撫で下ろす。 ―――よかった。そうだよな、まさかそんなことありえねぇよな。 心の底から安堵した土方は、しかし両の手首を何かにガシッと掴まれてぎょっとした。 「なっ…!?」 そのまま後ろに引っ張られ、布団に逆戻りする。瞳孔まで見開かれた土方の視界に、半分隙間の開いた障子から射し込む月の光を鈍く反射する銀色が映った。 「万事屋!?」 「よお。気付いてくれねぇなんて寂しいじゃねーか」 「って、何しに来やがった!」 「んー? 0時過ぎて魔法の解けたシンデレラならぬ狼サンをお迎えに、かな」 そう云って銀時は土方の頭に手を伸ばした。何かが髪に触れて土方はびく、と肩を跳ねさせる。 ばっと頭を手で押さえると、飛び出した硬い感触があった。短くやわらかな毛が生えた、ほぼ正三角形のそれ。 「これ、って……」 半ば愕然とした顔で呟く土方の手首を尚も掴んだままだった銀時が、ニヤリと口の片端を上げるのが逆さに見える。その銀色の頭には――おそらく土方の付けていた――ふさふさの獣耳があった。 狼男の姿をして、低い笑みを忍ばせた銀時の声が土方の耳を打つ。 「よく似合ってんぜ。黒にゃんこ」 「やっぱりかァァァアアアアア!!! 嫌だっ、離せコノヤロォォォ!!」 「だーれが、離すかってんだよ」 日付は変わり、ハロウィンは終わった。だから今度は銀時の番だ。 なのに逃がして堪るかと眼を細め、手に力を込める銀時の表情に躰を強張らせた土方の抵抗が弱まった。怯えを見せまいとするのに揺らぐ土方の双眸を覗き込んで、その甘そうな色合いに銀時はぺろりとくちびるを舐める。 「さァて、懐けってェのはお前にゃ無理だろうから」 ―――精々そのやわい爪で抵抗して啼いてもらおうか。 |