銀時は朝から緊張していた。何しろ、今日の日が来ることを、一ヶ月も前から恐れていたのだ。
 銀時はこの日のために、必死で対策を考えてきた。何かを言えば、もしかしたら諦めてくれるかもしれない。そう思った。だが、今回に限っては、必ずしも諦めてもらえるとは限らない。何しろ、産みの親が言い出したコトなのだから。だが、そんな裏事情を言ったところで十四郎に通じるわけもなく、銀時は涙を呑むしかない。そもそも、そんなメタな話を持ち出すべきではない。
 いずれにしても、間もなく十四郎はやってくる。今日は、産みの親の誕生を祝う火。果たして、この日に、一体何をさせるつもりだろうか。銀時はおびえながら、そのときを待った。





「よう、来たぞ」

 なにやらデカイ紙袋を持った十四郎が現れる。心なしかウキウキしているように見えるのは、気のせいではないだろう。

「ま……待ってたよ」

 必死で笑顔になりながら、十四郎を招き入れる。一体あの紙袋の中には何が入っているというのだろうか。誕生日……誕生日だから、何が起こるだろうか。折り紙で作った飾り付けだろうか。それとも、お花でも飾られるか?
 戦々恐々としながらソファに座れば、十四郎は早速頭をもふもふとさせ始める。ここまでの流れがあまりにも自然で、銀時は涙が出そうになった。
 だが、泣いてたまるかと言わんばかりに、唇を噛む。そして十四郎の動きを観察した。
 もふもふと、いつものようにふくらんでいく頭は、首を振ればぼゆんぼゆんと揺れる。銀時は流れそうになる涙を必死でこらえながら十四郎がいよいよ紙袋に手をつっこむのを見つめている。
 しかし、そこから出てきたものを見、言葉を失った。

「……土方、それってさ、あの……」
「ろうそくだ」
「あ、うん……そうだよね。ろうそく……だよね」

 当たり前のことのように言ってのけた十四郎は、更に当たり前のことのように銀時の頭にそれを差した。太いろうそくが三つ。そして、そのろうそくに、十四郎の愛用しているマヨネーズライターが、寄せられる。
 ぼう、と灯されたライターから、火が移る。頭の上でめらめらと、ろうそくは燃え始めた。

「えっと……その……土方?」
「ん」

 と、差し出されたのは、楽譜だった。

「えっと……歌う、の?」
「ああ」

 こっくりとうなずく十四郎。銀時はどう答えたらいいのかもわからず、歌い始めた。

「は、ハッピーバースデートゥーユー」
「違う」
「え?」
「ちゃんと読め」
「は……ハッピーバースデートゥー……うー?」
「そうだ」

 十四郎が満足げにうなずく。続けろとばかりに銀時を見る十四郎に負けて、銀時はそのまま歌を歌い始めた。
 頭の上のろうそくが、めらめらと燃えている。ろうが垂れてくる。熱い。

「あ、あの、土方。これ、熱い……」
「歌え」
「えっと、その……」
「歌え」
「……はい」

 十四郎は、銀時の隣でなにやらリボンを取り出し始めた。ブラシにそれをくくりつけている。誕生日プレゼント、なのだろうか。
 さすがは、産みの親へ、だ。銀時は半ば泣きながら、その光景を見つめ続ける。
 もう、なんとでもしてくれ。
 そんな気持ちで歌う歌は、お祝いであるはずなのに、どことなく哀愁が漂っていた。

 ハッピーバースデー・うー♪




鉄猿さんちの30万打記念絵チャに侵入してリクエストして略奪してきました。
丁度絵チャの前日が誕生日だったので、はぴば仕様のもふ銀ともふく長をリクエスト。そしててんさんと激戦を繰り広げられていたキングことマキハラさんの小説も直談判して強奪してきました。ふふふん。
てことで、イラストは鉄猿のてんさんに、小説はなだらかな下り坂のマキハラノリカさんにいただきました。
ありがとうございました!




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