≫あからさまに/銀時×土方 やめろなんて云う資格は俺にはないけれど。 「せめてもーちょっと隠すとか恥じらいを持ってくれてもイイと思うんだけど?」 視線を傾け、ぼんやりと――しかし多分な非難もしっかりと込めて呟く。すると濡れた髪の下で、ぬめるような水気を含んだ漆黒の双眸が此方を射抜いた。 「てめーに対して何を恥じらえってんだよ」 「けどよォ、なかなかに眼の毒だぜ…ソレ」 がしがしと大雑把に頭髪を拭く手を止めた土方の表情は、何が、と無言で問うてきている。 銀時は頬杖を崩して手を差し伸ばした。ちょいちょいと手招きすれば、僅かばかり訝しげにしつつも逆らう理由がないからか素直に近寄ってくる。片足を腿の上に乗せ、ソファで寛いだ体勢のまま銀時は眼球だけで土方を見上げた。 風呂上りで躰があたたまっているらしい土方は銀時が貸したスウェットの下だけを穿いている。それだけなら銀時も別段とやかく云うつもりはないのだが、裸の上半身に見過ごせぬものを見付けてしまった。 一体誰に付けられたのか、鎖骨の上の紅い痕を銀時は指差す。ああ、と思い出したのかどうかは微妙な、気のない返事をする土方に揶揄する口調で首を傾げた。 「今回はオネーサン? それともヤロー?」 「さァな」 「何てーかさァ、こういうのって」 「燃える?」 「萎える」 ぶすっと顔をしかめると土方は愉快げに声を立てて笑った。 「こんなのが先公になれるなんざ世も末だよなァ…」 生徒が可哀想だ、なんて心にもないことを嘯く銀時の首に土方は腕を絡めた。至近距離で視線を交わらせ、眦を更なる笑みに歪める。 「そうか? これでも結構、好かれてんだぜ?」 ≫AM25:00/高杉×土方 「こんな時間に何してんだ素行不良学生」 「べっつにィ? 唯の散歩」 小憎たらしい口調で吐かれた言葉を莫迦正直に受け取るには夜も更け過ぎていた。だが、そんな時間まで同僚の教師と呑んでいた自分も自分だと思って土方は深く追及することを避ける。もともと土方はそれほど正義感が強いわけでもなく、職務熱心でもないのだ。 くすんだ街灯の光に立つ高杉は相変わらず片眼を眼帯で覆っていたが、薄手のパーカーにジーンズという私服姿のせいでいつもと印象が違って見えた。だからだろうか、平均よりやや低めの身長で睨むように見上げてくる生意気で挑戦的な視線を、土方は巧く躱せない。 運悪く煙草を咥えていなかったから紫煙で溜息を紛らわすこともできずに、ぎこちなく話題を振った。 「お前、家この辺なのか?」 「ああ。センセーもそうらしいな」 ニタと笑う高杉の白い顔を見下ろして、土方は口内で苦々しく舌打ちした。 そりゃそうだ。駅からもそこそこ遠い、住宅街の道をこんな真夜中に歩いていれば十中八九この付近に住居があると考えるのが自然だろう。とんだ墓穴だと顔を顰める土方に、なァ、と高杉は意味ありげに口を開いた。 「何となくアンタに会える気がして眼が覚めたっつったらどーする?」 藪から棒に何を云う。土方は虚を衝かれて瞠目してしまった。そしてそのことを悔しがるように、ぶっきらぼうに吐き棄てる。 「ひとをからかってんじゃねェ」 「いつも可愛い生徒をからかってる奴の科白じゃねーなァ」 余裕ぶった笑みを口端に刻み、高杉はクツクツと喉を鳴らした。 どうにも状況は土方に分が悪い。酔いで頭が回っていないのだろうか。 「今夜は、俺の勝ちだな」 だから高杉の得意げな言葉にも反論できなくて。 怠い躰を引き寄せられるままに甘んじて口吻けを受け入れた。 |