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過去のweb拍手御礼短文やその他小ネタ。
≫風/銀時×土方
「多串くーん、遊ばない?」
「遊ばない」
強い風に乾く眼球が痛くて、いつも以上の不機嫌面が誘いの声に厭そうに振り返った。
気安く手を上げて近付いてくる銀髪に、男は威嚇のような声を突き返す。
「えー、つれないなァ」
「つれなくて結構。こちとら暇じゃねーんだよ」
云いながら、風に吹き散らされた髪に視界を遮られて反射的に眼を瞑る。
邪魔な髪を手で押さえつけ、瞼を抉じ開けると死んだ魚と同じ双眸がとんでもなく間近に見えて息を呑んだ。
後頭部を鷲掴みにしてくる手。少し皮の硬いそれに性急さを装った遊びのような仕草で引き寄せられる。
口吻けは甘かった。
錯覚ではなく、銀髪の男が口に含んでいた飴玉の糖分に口腔を犯される。
拒否し、撥ね退ける気にならない自分が憎かった。
慣れという名の嫌悪感の磨耗を、まざまざと自覚する。
そうして摩り減った間隙から、浸透してゆくものがあった。
それはさながら、吹き過ぎてゆく風のように。
≫空/山崎×土方
俺はよく空を見る。
「山崎ィ!!」
「ひぃっ!? す、すんませんっ! 何したか分かんないけどスミマセンー!!」
「煩ェ逃げんなテメェ!」
容赦無く張り倒されて砂の地面に転がった俺を仰向けにして、怒声の主は馬乗りになってきた。また殴られる。
ぐるぐる回転する世界と脳が混ざり合って気持ち悪い。吐き気を痛みで堪えて、俺は正面に映るものをつぶさに見詰めた。
ああ、晴れ渡った蒼い空は今日も果てなく高い。
拡がり続ける空の風景に、割り込んでくるものがあった。俺の胸倉を掴んだ、瞳孔の開いた眸が至近距離に見えて、鼻先が触れ合うほどに近付く。
遠い遠い空と比べて、その近さを確かめて僅かな悦びを得る。
心に仕舞った喜悦を糧に、横暴な上司の気が済むまで俺は只管耐えていた。
≫花/近藤×土方
目の前に差し出された一輪の花を、眉間に皺を寄せて訝しげに注視する。
「何の冗談だ、近藤さん」
「いや、花屋でお妙さんに贈る花を買ったらオマケしてもらったからさ」
そう云って自分の手に橙色の花を掴ませる短髪の男を見上げ、だから何の冗談なんだ、ともう一度吐きたくなる疑問を呑み込んだ。
何だってそんなものを俺に渡すんだ、と軽く頭痛がしてこめかみに手を添える。イイ年した男なんだから、花を喜ぶような感性は生憎と持ち合わせちゃいない。
こんなもんはその両手で抱えても余りそうな花束の中に突っ込んで、一緒にあの女に上げちまえばいいものを。
「お前が昔みたいに髪長かったらなァ、括ってるとこに差してやるんだけどよ」
「本気でやめてくれ」
悪気ない言葉にガックリ肩を落として低く呟く。
髪に花を飾った自分の姿など、笑いもの以外の何でもない。
「トシは色男だから何でも似合うぞ」
快活な笑顔から発せられたそれは、今の状況において果たして褒め言葉なのだろうか。判断つけられず曖昧に返事をしながら、手の中の花をクルリ、と回した。
≫鳥/沖田×土方 ※軽度の性描写アリ。
深く抉られ、悲鳴じみた嬌声を食い縛った歯と舌で殺す。
刺激に煽られ、撓らせた背に触れた感触は己を背後から穿つ青年の手指のものではなかった。
汗ばんだ肌に濡れたやわらかなものが押し付けられ、ちゅ、と音を立てて離れてゆく。
無理な体勢だと分かりながらも頭を巡らせて後ろを窺うと、少し息を荒げただけの涼しげな童顔が口許に笑みを貼り付けた。
「土方さん、知ってますかィ。大昔ヒトには羽があったんでさァ」
「ナ、ニ莫迦なこと云ってんだ。空っぽの頭で無理に何か考えようとすんな」
喘いでいたくちびるから放たれる刺々しい言葉に、組み伏せられた男の精神の強靭さが覗く。
それに見合う燃えるような鋭い眼を、感情の不透明な顔で見返した青年は、浮き出た肩胛骨に華奢な手を這わせた。
「確かに、バカバカしいハナシですけどねィ。それでも、」
アンタを見てると何と無く飛べるような気がするんでさァ。
≫月/神楽+土方
天高くぽっかり浮かんだ、まあるい満月を目指していた少女は、人差し指を思い切り人に突きつけた。
「あ、多串くんネ。こんな時間に何してるアルか」
「多串じゃねェし、お前こそ何してんだチャイナ娘」
「そんな風に呼ばれる筋合いはないネ。私には神楽っていう立派な名前があるヨ。人の名前も覚えられないのか瞳孔パックリ」
「お前にだけは云われたくねぇ科白だなオイ!!」
少女の愛らしい相貌から飛び出す辛辣な言葉に語気を荒げた男は、眉間に刻んだ皺を深くする。
銜えた煙草に灯すライターの赤い火は一瞬で、すぐに色のない清浄な月の光だけが辺りに充ちた。閉じた番傘を後ろ手に携えた少女が、すん、と鼻をひくつかせる。
「女の匂いがするネ。抱いてきたのか?」
「餓鬼がンな言葉使うんじゃねーよ。夜歩きすんのも早ェ、補導される前にとっとと帰れ」
「その匂い消すのに煙草吸ってる男のほうがもっと餓鬼アル」
顔色の一つも変えずに云ってのけられ、思わず言葉に詰まった。気まずさを紛らわせるように紫煙を吐き出し、狂わされたペースを取り戻そうと試みる。
「で、お前は何してんだ」
「アレ、追い駆けてたヨ」
会話をリセットさせる男を追及せず、少女は突きつけていた指をそのまま空に向けた。その先に佇むは完全な円形の衛星。
肩越しに振り返ってそれを仰いだ男が半ば呆れた声で云う。
「追い付けねェだろ」
「構わないヨ。唯私が追い駆けたいだけネ」
「何で」
「月はやさしいネ。お日さまに嫌われた私でも受け入れてくれるヨ」
だからコレは愛情表現アル。
歌うように答えた少女はまた歩き出して、男の隣を通り過ぎる。そして弾むような足取りで数歩進んだ処で、何か忘れ物を思い出したように立ち止まった。
躰の向きを反転させて、自分より遥かに背丈のある男の背中に声をぶつける。
「お前、名乗るアルよ」
「…土方だ」
少女の声音にはどうしてか拒否を許さない響きがあった。また、拒む理由もなかったので答えると、はじめて少女はその容姿に似合う笑みを浮かべた。
「次からはひぃちゃんと呼ぶネ」
≫十月三一日・壱/銀時×土方
ぐっと手に掴まされたものを見て、土方は眉間に皺を寄せた。その思いっ切り訝しげな様子に気づいているのかいないのか――今回はおそらく後者だ――銀時は今にも涙しそうな情けない声でほざく。
「俺が人に甘いものをやるってのがどういうことか分かってる?! 断腸の思いだよ、魂を裂かれるような気持ちなんだよ! だけどそれだけ多串くんのこと大事に思ってるからコレあげるんだからね!! 分かってる!!?」
「全然、意味分かんねーよ」
手元を見下ろし、やたら近い位置にある銀時の顔を見て、ウンザリと云った。
土方の手のひらの上には零れ落ちそうな数の飴玉。紅や蒼や緑や紫、鼈甲色など色とりどりで眼にも鮮やかだ。
しかしまだ朝も早い時間に突然押し掛けて来られてイキナリこんなものを渡されて、それで何を理解しろというのか。
言葉にするのも面倒で眼で問うと、銀時は焦れたように畳を叩いて膝を進めてくる。
「だーかーらー、多串くんは絶対用意してないと思ったから持ってきたんだよ! これでちゃんと自分の身を護ってね!! 多串くんは俺のなんだから! 本当は一日張り付いてたいんだけど本格的に生活窮乏しててバイトなんだよ。あ、ヤベ。もう時間だし。じゃ、また来るから!」
土方に口を挟む隙を与えず云いたことを一方的に云った銀時は、聞き棄てならない言葉を幾つか残して嵐のような勢いで去っていった。入ってきたときと同じく、窓から。
その後姿が見えなくなってから、土方は漸くまともに思考を取り戻す。
「…門番は何やってんだ」
観点はそこなのか。
この日土方は、真っ先に『屯所の警備体制について』という案件に取り掛かった。
≫十月三一日・弐/沖田×土方
「土方さん、Trick or Treat! どっちかといえば悪戯させてほしいんですけどねィ」
山積みの書類と格闘していた土方はその暢気でありながら剣呑な声に厭々振り向いた。できるなら無視したい、しかしそれを実行したらしたでどんな報復を食らうか分からないといった気持ちが前面に押し出されている。
そこで、ピンと今朝の銀時の言葉が脳裏に甦ってきた。
馴染みがないのですっかり忘れていたが、今日はハロウィンだ。
それを思い出すと、銀時の意味不明な言葉の意味も分かった。唯、何故わざわざ銀時が自分を助けるようなことをしたのかはサッパリ分からない。が、少しくらいは感謝してもいいという気もした。沖田の云う"悪戯"など、どんな恐ろしいものであるか考えたくもない。
ペンを置いた土方はごそごそとポケットを探って飴を取り出した。それを沖田に向けて放る。
「ほら。やるから仕事の邪魔すんなよ」
すると沖田は珍しく心底驚いた顔をして反射的にキャッチした飴を見詰めた。
まさか土方がお菓子を用意しているとは考えなかったのだろう。その飴を潰しそうなほど強い力で握り込んだ沖田は、おそろしく不自然に、にぃっこりと笑った。
「誰の入れ知恵ですかィ」
「朝早くに銀髪が俺に掴ませてったんだよ」
しかしもう書類に眼を戻していた土方は、いつもどおりに平坦な声の沖田の常にない表情に気づいておらず、惰性で答える。
沖田は包み紙を剥がし、合成着色料で毒々しいまでに紅い飴玉を口に放り込んだ。舐めるといっそ憎らしいくらいに甘い。甘さなんて、この人には無用なのに。
「…分かりやした。俺ァ、ちょっくら出かけてきますぜ」
ゆらりと鬼気迫るオーラを発しながら沖田は部屋を出て行く。遅れて振り向いた土方は、今更だ今更だと思いつつも収まらない怒りを込めて呟いた。
「…仕事しろや」
≫十月三一日・参/山崎×土方
山崎は開いた未整理のファイルから床にバサリと落ちた紙の束を拾い上げて、血の気が引く思いがした。
昨日が提出期限の報告書だ。昨日は此処で過去の資料を引っ繰り返したりバタバタしていたから、偶然このファイルに挟まってそのまま提出し忘れてしまったのだろう。
慌ててそれを引っ掴んで土方の部屋に向かった。
山崎に伝えられる期限は、幕府に提出する前に一度チェックする分だけ余裕があるというのがせめてもの救いだ。急げば本当の期限には間に合う。…5発や10発、殴られることは覚悟しなければならないが。
途中で、縁側のほうを歩いている土方を見付けて山崎は其方に方向転換して走る。
「副長!」
「何だてめェもかよ」
しかし土方の前まで辿り着くと意味不明なことを云われ、呼吸を整える為に一度深く息を吐いた山崎は首を傾げた。
他にも誰か報告書提出を忘れたのだろうか。けれど自分はまだ何も云っていないのだから、用件が分かる筈がない。
「はい? 何のことです?」
「違うのか?」
「はぁ、まあ」
「そうか。…ったく、誰が広めたか知らねぇがどいつもこいつも子どもでもねぇのに菓子を強請ってきやがって。てっきりお前もかと思ったんだが」
ああ、ハロウィンか。
納得して、山崎は何とも云えない乾いた笑いを浮かべた。本当は云ってやりたい言葉は、胃の底より深くまで呑み込む。
「は、はは…」
それ、多分目的はお菓子じゃないと思いますよ。
「山崎、ついでだからお前にもやる」
「え?」
ぽいっと無造作に飛んできた飴玉を受け止めて山崎は眼を瞬かせた。
「だから、ちゃんと仕事しろ」
「あ、はいよ!」
何だか疲れた様子の――そういえば今日は何度も怒鳴っている声を聞いた――土方からは、隊務に支障をきたしまくりなのだということがありありと感じ取れる。
こんなときは真面目に仕事をして、信用を得ておくに限ると思って山崎は返事した。
≫十月三一日・四/土方×神楽
「ひぃちゃん、お菓子寄越すヨロシ」
土方をひぃちゃんと呼ぶ少女は、その小さな手を遠慮なしにずいと差し出してきた。
何故部外者である筈の人間が屯所の自分の部屋にいるのか、もう疑問に思う気力も土方には残されていない。
「今日は子どもはお菓子貰えてウハウハな日だって聞いたネ。だから寄越せヨ」
「お前この行事の大事なポイント悉く無視してんじゃねぇか…」
仮装も決まり文句もなければ最早どんなイベントなんだか分からない。
幾分か標高の下がった書類の山が鎮座している文机に頬杖を突いて、土方は呆れたように云いつつも飴を普段と同じ服装の神楽の手に乗せた。けれど神楽はそんなものは要らないとばかりに飴を土方に突き返してくる。
「こんな甘いだけのモンに興味はないネ。酢昆布がいいアル」
「持ってねぇよ」
「なら買いに行くヨ。私も付いてってやるから」
「たかりのクセにエラそうだなオイ!」
ちんまりとした愛らしい容姿の何処に仕込んでいるんだか質してみたいほどの図々しさで神楽は酢昆布を要求する。少女はトレードマークの番傘を掴んで跳ねるように立ち上がった。
そして土方の腕を引っ張って早くと急かす。断られるとは全く考えていないらしい。どれだけ楽観的な頭をしているのか、いっそ称賛に値する。
土方は本来の趣旨から大きく外れていることについてはもう考えないことにした。云っても無駄だ。
立ち上がった土方に神楽はまた手を差し出した。さっきと違うところといえば手のひらが水平ではなく、握手を求めるように縦になっているというくらいだ。
「ひぃちゃん、手」
一瞬、その意図を判じかねる。
「ああ? ……仕方ねぇな」
その手を取ってやると神楽は満足そうに笑んだ。
繋いだ少女の手は見た目以上に小さく感じて、あたたかい。子ども体温だな、と思った。
土方を先導するように歩く神楽は夕焼けの中でも傘を開く。それを何となく見下ろすと、夕陽を吸い込んで蒼より紫っぽく見える双眸と眼が合った。
「暴漢が襲ってきても私が護ってあげるヨ」
「そりゃ光栄だな」
普通は逆だろうとツッコむのも莫迦らしく、土方は煙草のフィルターを噛むように笑った。
≫風呂と酒と/沖田・土方・山崎
土方は珍しく機嫌が良かった。それを表すものは眉間に皺が寄ってないということくらいしかないので大半の者は気付かなかったが、兎に角上機嫌だった。
その要因は慰安旅行で訪れた宿の温泉である。
到着後、早速一風呂浴びることにした土方は大浴場の内風呂で躰を温めてから露天風呂に移動した。そこで岩風呂を模した浴槽の奥に置かれたものに気付く。
「お、酒があんじゃねぇか」
「だっ駄目ですよ飲んじゃ!! すぐ酔い回るんですから!」
後から付いて出てきた山崎が慌てた様子で土方の腕を掴んで制止した。ムッとした顔で土方はそれに振り返り、邪険に山崎の手を振り払って浴槽に足を浸ける。
「ちょっとだけだよ。つか何でてめェに止められなきゃなんねぇ」
「うわああぁっ、拳振り上げないでくださいよ! だって自分が酔ったらどんなになるか分かってんスか?!」
「だからちょっとだ、っつってんだろうが! それくらいで酔うかってんだ」
「だ、だけど〜ッ!」
「俺も反対でさァ。嫌だってんなら俺と山崎で全力で引き摺り出しますぜ」
先に湯で寛いでいた沖田の言葉に山崎の表情が明るくなる。真選組最強を謳われる沖田が味方なら心強いということなのだろう。反対に土方の顔は苦虫を噛み潰したようだ。
「……チッ」
沖田は本気だ、二人がかりでこられたら幾らなんでも引っ張り出されてしまうだろう。そんな間抜けな姿を人目に曝したくなどない。
忌々しく舌打ちした土方は、しかし諦めずに後でこっそり来ようと決意した。おそらく、それも叶わないのだろうけれど。
≫シャッターチャンス/沖田・土方・山崎
「アレ乗りやしょうぜ」
沖田が指差した建物を振り仰ぎ、土方は眼を眇めた。
「ジェットコースターじゃないんだろうな?」
そんなことを訊いてしまうのは、この前に乗せられたアトラクションが、外にレールが見えないから油断していたらバッチリ最後に急降下するというシロモノだったからだ。
体面上、怖いなどとは口が裂けても云わないが、土方はあの落ちてゆく瞬間の躰の浮遊感と心臓が竦んで浮き上がるような感覚が嫌いである。そんな心情を表に出すまいと顔を顰める土方に、斜め後方を歩いていた山崎が笑みと共に答えた。
「ええ違いますよ」
「最後に落ちるときに写真撮られるから土方さん、きちんと笑うんですぜ」
「落ちんのかよ!」
「あ、何で正直に云っちゃうんですか隊長! 大丈夫ですよ、落ちるって云っても最後のちょっとだけでジェットコースターとは違いますし副長も多分怖くないと…」
「俺は怖くなんかねェ!! テメェ山崎、何を根拠にンなことぬかしやがる…ッ」
「ああもう我が儘な人ですね! 怖くないんだったら行きましょうよほらほら!!」
胸倉を掴もうとしてきた土方の躰を山崎は逆に押して、沖田は引き摺るように袖を掴んで土方を連れて行った。
そして結果。
落下の最中に撮影された画像が表示された画面から自分たちを見付けた沖田が、抑揚の無い声で呟く。
「ありゃ、下向いちまってんじゃねぇですかィ土方さん。つまんねェなァ」
「そういうテメェは笑うのを堪えてんのか怖くて顔引き攣りそうなんを押さえ込んでんだか分かんねェぞ」
「思いっきり眉間に皺寄せてますね、隊長」
「何で山崎はムチャクチャ笑顔なんだィ」
「俺、こういうの好きでよく乗るんですよ。だからじゃないですか?」
「「…………」」
≫似合い?/沖田・土方・山崎
土方の背後からソロリ・ソロリと気配と足音を殺して忍び寄った沖田は、男の黒髪の上に黒くて真ん丸なねずみの耳が付いたカチューシャを乗せた。しかも、ふたつのねずみの耳の間には赤いリボンまで付いている。明らかに女の子向けの品だ。
突然生えてきたように上司の頭にピッタリと嵌まったその作り物の耳を山崎は一瞬茫然と見上げ、
「………ぷっ」
耐え切れず噴き出した。途端に土方の眦が吊り上がる。
「何笑ってんだ山崎ィ!」
「ぇ、えええ?! だ、だって! 副長は似合いたいんですか!!?」
「んなわけあるか! だけどてめェに笑われるとムカつくんだよ一発殴らせろ!!」
「そんな横暴なッ…ギャアアアァァ!!」
八つ当たりだ、と文句を云う間も惜しく逃走する山崎を追い駆けていく土方を、沖田は感情に乏しい眸で見送る。
「あーあ、耳つけたまま行っちまったィ」
その声音だけは、ほんの僅かに愉しげだった。
≫掃除/沖田×土方
避けられない為に、両手で頬を包み込んで。
目許にくちびるを近付ける。
流石、肝が据わっているのか瞑られなかった眼球を、突き出した舌でべろりと舐った。
「てめェは何がしたいんだ」
呆れた声音で溜息。
眼を瞬いて、舐められた感触を不快そうに追い払う男の拒絶を、無表情に見詰めながら答える。
「掃除でさァ」
あんまりにあの人しか見ないから、曇ってるんじゃないかと思って。
≫シロップに浸かるほどの/銀時×土方
アイスコーヒーに添えられたガムシロップには手を付けない。
「それ、使わないんだったらくれない?」
「てめェ、ココアにまだガムシロップなんか入れんのか?」
考えただけで気持ち悪くなりかけながら呟く。と、目の前の男は平然と頷いた。
「甘いもんってのは甘けりゃ甘いほど良いんだよ」
「そんなこと云ってっから糖尿になんだよ」
「あ、心配してくれんの?」
「んなわけねーだろ。俺ァ呆れてんだ」
「いや、けどこればっかはやめらんねーなぁ。この世から糖分消えたら俺、発狂しそうだし、」
律義にガムシロップを渡してくれる手を掴まえる。
「やっぱ何事も甘くなきゃ」
引き寄せて手の甲に口吻けをひとつ。
≫侵触/山崎×土方
ふわふわ 揺れる 深い色の髪が
窓からの微風では暑さに抗しきれず、団扇を忙しなく動かしながら書類を捲くる。
胡坐をかいてダルそうに紙面の文字を追っている男の旋毛を直立したまま手持ち無沙汰に眺めた。
風に髪の毛がふわふわとそよいでいる。
ふ、と息を詰めて。静かに上体を屈める。
座っている男はそれに気付かない。
揺れる髪に惹かれ、旋毛にキスを落とす。
「…何だ?」
「いえ、ちょっとゴミがついてたんで」
元の直立の体勢に戻って、誤魔化すように笑った。
髪には神経が通ってないから、感触の違いなんて分からない。
唯一、自分からこの男に触れられるトコロ。
≫判断基準/近藤×土方
断ることの出来なかった、面白くもない酒の席。
隅のほうでちびちび酒を舐めている俺にあの人が手招きした。
いつも以上に陽気で豪快な笑みに、酒気を帯びてすっかり紅くなった頬。
大丈夫かよ、と嘆息を零して近付く。
ぐいっと手を引かれて倒れ込んだ腕の中は酒臭かった。
大きくてゴツゴツした手が俺の前髪をかきあげて、あたたかい感触が触れる。
驚いた俺と眼を合わせてアンタは笑った。額にキスした口が声を紡ぐ。
「愉しいなぁ、トシ」
ああ、畜生。
愉しいさ、アンタがそんな顔で笑い掛けるんならな。
≫鬼神/土方
突入の前の興奮に乾いたくちびるを舐めた。
待ち侘びた瞬間に眼を細め、刀の柄を握る。
気分の昂揚を隠す必要などない。
スラリと鞘から抜き放った白刃に歪んだ口許が映る。
軽く振るえば鋭く空を斬る音。
強く光を反射する抜き身の刃。
地面に落とした煙草を踏み躙る。
美しい刀身に、命の駆引きの始まりを合図するキスを。
勝利の女神に口吻けを。
≫誓い/幕僚×土方
命じられれば跪き 足の甲に忠誠のキスを
鳴けと云われれば鳴き 廻れと云われれば廻る
矜持を棄てることなど 簡単だ
幕府の狗と蔑まれることにも慣れた
総ては大事なものを護る為に
忠誠を誓おう アンタ以外のものに
偽りの忠誠は 牙を隠したキス
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