金時×土方/No.1




性描写アリにつきご注意。







 ドン、と叩きつけられる。
 瞬間的に眼を瞑った土方は、ニヤついた癇に障る笑みを浮かべた男を睨め付けた。壁に打ちつけた背中が痛い。しかしそれ以上に、己を囲い込むように腕を壁に伸ばしてきた金時のほうが土方は我慢ならなかった。
 ―――構ってほしかったの?
 云うに事を欠いて、愛玩動物に対するかのような口調だった。
 その言葉にカッとして怒鳴ったら壁に追い込まれてこのザマだ。ムカツク。眼前の男にも、自分にも。
 第一、コイツの云う構うってのはこういうことか。
 明確な意図をもって肌を撫でられ、土方は拳を振り上げた。忌々しいこの状況から脱しようと暴れもがく。掴まれた手首も振り解くと、今度はガシッと髪を鷲掴みにされた。引っ張られる痛みに土方は呻き、それを見て金時は微笑う。

「大人しく俺に遊ばれてろよ」

 笑ったまま、底冷えのする声で囁いた。
 土方はギクリと動きを固める。金時の軽薄な顔を凝視した。不意に垣間見える、金時の中の得体が知れない部分に薄ら寒くなる。
 抵抗をやめた傍から、金時は図に乗ってきた。土方の耳を舐る舌と、今度はやさしげに髪を掻き分ける指に腰まで痺れが走って土方は焦る。ここで金時の思い通りにさせるわけにはいかなかった。そんなことは土方の矜持が許さなかった。けれど、生身の反応は与えられる物理的刺激に逆らう術を知らない。股間に押し付けられた膝でぐりぐりと揺すられて脈拍が乱れた。息が上がる。躰を徐々に侵蝕していく強制的な性感を、精神で押し込めるにも限界があるのだった。
 突き放す為掴んだ金時の肩にギリリと爪を立てる。痛い、という気怠げな声は無視する。奥歯を食い縛ると熱せられた息が体内に溜まり余計苦しくなった。逆効果だ。そうと分かっていても確実に上擦る呼気をこの男に聞かせられるわけがなかった。

「――…クソッ」

 殺していた息が声となって憎々しげに吐き出される。
 ズボンと下着を中途半端にずり下ろされ、硬く熱くなった自身を直接握られた弾みに肩が震えた。ギリ、と爪の先に力が集中する。それに比例するかのように男の手の動きは速度と執拗さを増した。断続的に襲いくる快楽の波に意識は攫われる。喘いだ声に男は満足げな顔をする。先端からはとろりと兆しが溢れて棹を伝った。それでも達せぬのは一片の理性が制止をかけるからだ。このままでは男の思う壷、踊らされているだけだと。それが重大なことなのか下らないことなのかも判断できずに、それでも、とにかくそんなのは御免だった。
 ―――後10分しかないけど、それでもいい?
 せめて、10分だけは。何としても耐え切ってやる。

「頑張るなァ。ここまできたらもう全部委ねちゃったほうが楽じゃない?」
「だ、れが……!」

 誰が降伏などするものか。
 意地になるが、大きな手のひらに自慰とは違う動きで扱かれてどうしようもなく躰が跳ねる。疾うに腰は砕けていて、壁を支えに立つだけで精一杯だった。だというのにまだ諦めないのを、金糸の天パをもつ男がいやらしい顔をして揶揄する。金髪の輪郭が照明の逆光を鈍く弾いていた。
 憎悪さえこもった眼でギロリと睨みつけるが、金時は何処吹く風で手を動かし続ける。手の中のものは限界まで膨れ、染まった眦と同じように雫を湛えていた。此方が先かタイムリミットが先か、ふと思い出して金時は時計を見遣る。

「あ、時間」

 思ったより愉しくてつい時間を忘れてしまっていたらしい。
 そんな自分に驚いて力加減を誤った。ぐっと抉るように強く先端を刺激してしまう。

「……ッ、ぁ!」

 今までで一等、聞くに堪えない声だった。
 きつく閉ざした瞼が痙攣し、絶頂を迎えさせられる。更に最後の一滴まで絞り出すかのような手付きに、全身から力が抜けた。男の肩口に顔をうずめてあまりの屈辱感に歯軋りする。
 その躰を男はあしらうように手放した。けれどまだ足腰は立たず、ずるりと壁伝いに崩れ落ちる。視線を感じて顔を上げると此方を見下ろす男と眼が合った。

「お前ってさァ、乱暴にやられたほうが感じんの?」

 指に絡む精液をティッシュで拭い、それでもまだ残滓が気になるのか手を洗いに行きながら男は嘲るように口を歪めた。






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