―――あの日のアレか!!!!!!

 思い当たる記憶に、十四郎は思わず頭を抱えてその場にくずおれる。
 渡した。確かに渡した。アレはれっきとしたチョコレートだった。そしてあの日はバレンタインデイだった。しかし、だからといって、そのような意図が含まれていたわけではない。断じて、ない。そもそも銀時にねだられて購入したものなのだから、恋愛感情が絡んでいるわけがないのだ。それは同性だとか兄弟云々以前の話である。
 しかし、そんなことを、まだ年端もいかない子どもに懇々と解説するのは気が引けた。おとなげない、と思う。
 それに、一ヶ月も前のことを、今更間違っているなどと云えようか。十四郎は云えない。今更過ちを正せと云うのは、あまりに酷な気がしてならないのだ。
 けれど、だからといって、それでも、訂正しないでいるのは非常にまずい。とんでもない危険因子を放置することになりかねない。
 己の髪を掻き乱して突然苦悶しだした兄を、銀時が不思議そうに呼んだ。

「にーちゃ?」
「え? あ、ああ……あ、あのな銀時……」
「これ、おかえし」

 どうオブラートに包んでこの事実を伝えたらいいものかと思い悩みながら言葉を紡ぐ十四郎を遮って、銀時がずっと自身の背中に隠していたものをずいっと差し出してくる。水色の包装紙に白いリボンがかけられた小さな箱だ。おそらく飴やマシュマロの類でも入っているのだろう。何となく反射的に受け取ってしまったそれに十四郎が視線を落とすと、小さなふたつの手のひらが伸びてきて両頬に添えられた。
 そのまま、ぐいっと顔を上げさせられる。十四郎が膝を突いているので銀時とほぼ同じ目線の高さだ。


「あいちてるぜ、にーちゃ」


 そう云って、幼児がニヤリと男くさい笑みを浮かべる。

「……そういうことは、ちゃんと発音できるようになってから云え」

 ツッコミどころはそこではないことに、思考力から脱力しきっていた十四郎は気付けなかった。





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08.03.14











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